続・派遣の実態

翌日つくしは初仕事に向かうべく、早目にマンションを出た。
「くれぐれも、電話は出ないでね」
「留守電にしとけだろ、分かったから」
進には固く口止めを頼んだつくしである。
情にほだざれて、うっかり喋りかねない部分もあるのだ。
つくしは愛用のママチャリで、通い慣れた『英徳学園前』に到着した。
「5分前に到着したから大丈夫かな」
集合場所には、沢山の人で溢れている。
「クリエイトの方ですか?」
それらしき、ジーンズ姿の女性に声を掛けてみた。
「そうですよ、割田さんはあの人」
と、彼女が指差した人間に近付く。
「割田さんですか?」
「そう、クリエイト?」
「はい、杉田つくしです。宜しくお願いいたします」
「はい、揃ったから移動するので付いてきて」
割田と呼ばれた男性は、手慣れた感じで返した。
頭数で揃ったらしく、割田を先頭にゾロゾロと移動を開始した。




つくしは不安そうに眺めていたが、先程声を掛けた女性と言葉を交わすうちに緊張はほぐれていくのであった。
「派遣の仕事初めて?」
「はい、緊張してます」
「仕事は黙々とやれば、当たり障りの無い現場だから」
話に依ると、現場の中には『派遣社員苛め』なる場所もあるようだ。
新人で仕事が不得手の人を槍玉に上げ、そのイビりに参加しなければ自分達が槍玉に上がるのである。


正社員でも下っぱでも、変わらないのが此方手の話である。


現場に到着すると、館内で挨拶をした。
割田から再度、注意点を説明される。
「挨拶は当然だけど、作業で分からない事は社員さんかパートさんに聞く事。それ以外は、自分に聞くように」
5分前になり、朝礼があるとの事だった。
つくしは作業に必要な道具を持参して、派遣の列に並んだ。
『おはようございます、今日の作業は・・・・』
と、本日の作業内容の説明を受ける。
『後、連絡事項ですが。今日は取引先のお客様がお見えになります。皆さん挨拶を、お願いします』
挨拶するとは言っても、会釈する事である。
つくしは朝礼が終わると、派遣で集まり指示を受ける事になった。
「杉田さんは、此方チラシをセットして封筒に入れてください」
つくしは社員らしき男性から、指示を受けた。
「此方遣り方ですか?」
「はい、それで此方に置いて最後に封をしてください」
「チラシは、枚数と順番を間違えないでね」
つくしは頷くと、作業準備に掛かるのだった。
始業のチャイムが鳴り響き、つくし初の仕事が初まった。
最初は戸惑いながらの、隣人に聞いたりとやりながらで。
が、慣れて来れば雑草のつくしである。
学生時代は、内職も経験していた。
普通に数をこなして、そのうち乱丁や破れたチラシを別にしたりと自分のペースである。
「上手いね」
「手慣れてるね」
パートや社員に誉められて、黙々と仕事するうちに午前の作業は終了した。
「休憩で~す。午後の開始は・・・・」
つくしは手を止めて、食堂に移動した。


休憩時間はお昼を取ると、パートや社員らともお喋りに花が咲いた。
「午後に来るお客様って、どこの方ですか?」
「さあ、松坂商会のお取引先様みたいだけど」
松坂商会は、メディカル関係で急成長の会社だ。
チラシの内容とは、関係ないのであるが。
「派遣さんは関係ないから、会釈だけしてね」
モデルのように、美しい事務員が言う。
つくしは仕事に戻る為に、休憩室から移動しようとした矢先である。
「えー、ウッそ~」
「わが社にも遂に」


休憩室から作業場所に移動する時に、女子社員やパート達の黄色い声で話すのが聞こえて来た。
「あー、化粧直そう」
つくしは淡々と仕事場に向かうだけであった。
「化粧直そうって、芸能人が来る訳?」
(見た目ならモデルだろう)
午後の昼例では、ペースが早く進んでるのかお誉めの言葉も頂いたつくし達である。


「杉田さん、悪いんだけど。此方で僕の仕事手伝ってよ」
と、言って来たのは若くて爽やかな高居と言う社員だった。
「慣れてないので、教えて下さいね」
「分かりました、このチラシを・・・」
コツを覚えたつくしは、マイペースでやり出した。
「のみ込み早いから助かる」
「有難うございます」


その後ろでは、大名行列とおぼしき御一行が作業場所や工程を見学していた。
「杉田さんだったかな?今度は此方のなんだけど」
「はい」


つくしの肩をポンポンと叩く人がいる。
「説明受けてから」
再度叩く、それも幾分か強めで。
「ちょっと待って下さいね」
高居の説明を聞こうと、じっと見るが。
肝心の高居は、固まったまま動かない。
それも蒼白である。
つくしは、首を傾げながら振り向いた。
「テメーは、此方で何してやがんだ」



取引先の知り合いが、よもやとはつくしは頭が痛くなるばかりであった。




な、訳で明日は誘導尋問して貰いましょかね
w。