派遣の実態

悠香の実体験を若干一部使用しています。

尚、話は全くフィクションです。

因みにシリアスでもありません。



とある都心の雑居ビルの一室で。

牧野つくしは、面接を受けていた。

ブラウス姿にカーディガンで、ガウチョパンツと本当によくある服装で。

履歴書不要の項目に釣られて、前日に面接のアポを取って。

どんな事務所と尋ねれば、雑居ビルの一角と聞いて首を傾げたつくしである。


事務所はつくしの他には、若い制服姿の女子学生やアキバ系っぽい眼鏡でボサボサ髪の男から、白髪交じりの中年と幅広い。

『此処ってどんな仕事するんだろう』

時間になったのか、若いジャージ姿の青年がつくし達が座る席の前で話始めた。


『この度は、スタッフクリエイトの登録会に参加頂きまして、有難う御座います。弊社は登録型の派遣会社になりまして、予約頂きましてからお仕事を紹介する形になってます。必ずしも、ご希望にあったお仕事を紹介出来るとは限りません。その辺は、ご了承下さい。予約したその日にお仕事も紹介できない事もあります』

一概に説明をして、映像による仕事の内容や派遣先でのマナー等の説明を受けると。

書類に必要事項を記載して、個人面談となる。

最後に顔写真を取って終了であるが。

『写真は登録書類用以外には、使用しませんので安心して下さいね』

(そんな事するの誰が・・・・居るんだよな)

個人面談は、つくしの出番である。

「杉田つくしさん・・・で宜しいのですか?」

「はい、牧野は旧姓でして。杉田で登録をお願いします」

何処から漏洩するかというケースは、過去の出来事で懲りたつくしである。

只でさえ此の苗字は、厄を呼び込みそうだと溜息のつくしだ。

「メープル・メンテナンスの契約社員ですか?」

室内は一斉にどよめいている。

「あのう、守秘義務はお願いします」

「いや、一流企業にお勤めみたいですから。派遣の仕事ってのが・・・・」

その通りである。

つくしは一人暮らしなら、バイトしなくも・・・である。

去年郊外にマンションを購入してからは、弟の進と暮らしている。

進は公務員でバイトが出来ないので、つくしがバイトがてら小遣い稼ぎをしている。

親への仕送りや、マンションのローン等を含めると足りないのが現状である。

進は公務員になりたてで、未だ給料も薄給なのである。

「姉ちゃん、何かオレ申し訳ないよ」

「アタシがバイトの時は、弁当無いけどゴメンね」


何だかんだで、5年目の契約社員。

メープルの名前でも、関連会社ではない。

メンテナンス関係の会社で、『ホテル・メープル』とは稀に取引があるのみだ。

昔はバリバリの企業で働いていたが、今は静に暮らしている。

父は実家の仙台に戻り、静かに家庭菜園で暮らしている。

母は合いも変わらずパート生活をしながらだ。

「では、明日に予約で構わないでしょうか?」

「はい、お願いします」

「明日の夕方に確認のお電話をお願いしますね」

「はい、分かりました」


登録会は終了し、つくしは帰路に着いた。

その帰り道である。

つくしはスクバのカフェで、あきらと再会を果たした。

「お、牧野。綺麗になってたから、分からんかった」

「相変わらずお上手。マダムと・・・」

「まあな、これから」

「そうなんだ、じゃあね」

つくしは、直ぐに走って駅の方向に向かった。

「牧野、変な奴だな」

あきらは、訝しがりながらもそのまま後にした。


つくしが確認の電話を掛けると、無事に仕事の予約が取れていた。

『明日のお仕事は、リアン・プリンティングさんで軽作業のお仕事です。つくしさん含めて15人の現場になります。

リーダーは割田さんていう50代の男性。英徳学園前駅で7時40分集合になります。昼食は持参するか、近くのコンビニでも任せます

軍手・カッター・ボールペン・をお願いします』

「はい、分かりました」

「出発コールは何時に?」

「7時でお願いします」

「では宜しくお願いいたします」